おにいさんの手帳

ブラック企業のオーナーを辞めて職探ししてるところから始まります

退社

退社の挨拶を本日の早朝致しました。

 

約半年前、突然と姿を消し、みんなの前に姿を現した私。迷惑を掛けたとは思っているけど、思いたくはない。ここまで追い込んだのは会社のせいだから。前日、あまりの恐怖に浅い眠りで目を覚ました。起きると同時に日本酒を2合分飲み、会社の近くのコンビニで1合分を買って飲んだ。素面では耐えられないと思ったのだ。

 

僕は何もなかったかのように会社の会議室の椅子に座り、出社してくるみんなも「よぅ」「痩せたな」「ジュニアーはたらけー」「年賀状みたかーのみいくぞー」「げんきそうでよかったっすー」「リフレッシュしたかー」「風呂いきましょうよー」と涙が出そうなほどに優しいというか、これはうまく表現できない。

今日の工事予定を部長が話して、僕が挨拶をした。前日まで何度も練習したものを、早口気味だとは思ったが言い切った。2年半、を1年半と言い間違えていたらしいがささいなものだ。僕が椅子に戻り、社長であり父が「ただただ、申し訳ございませんでした」

 

と言っていたのがなんだか面白かった。私の不始末について言っているのか、それとも自分の至らなさに言っているのかは興味があった。僕が会社を辞めるに至ったのは90%が社長であり父が原因なのだから。

 

解散して、車に積んであった道具を片づけた。仲が良かった人たちからは決まって「何するんですか?」と聞かれたけど、そんなものは決まっていないから「二人で商売はじるか!」とか「おすすめないですかねえーw」ととぼけて見せた。

 

この会社は基本的にいい人しかいない。というか気の毒なほどいい人しかいない。何故これほどいい人たちしかいないのか不思議だ。恐らく、経営陣が基本的には気がいい人間たちなのだろうし、私自信もその傾向がある。ただ、僕の生き方や価値を否定し労働という生き方だけを強要してくる社長にだけは気が合うことがなかった。

 

そんなものだから基本的な人間関係自体は問題がない。特に現場サイドに近づけば近づくほど、僕は僕として受け入れられていた。僕の立場というものにある程度気を遣っていないわけではないだろうけど、その立場の効果を失っても尚、変化がなかったことに人を疑いすぎていたのではないかとも思った。

 

そんなことを思って、会社の物置で測量機械をチェックしていると24歳の現場監督が声をかけてきた。僕が一番、色々な意味で愛している男の子だ。男の娘でもある。初耳だったが、僕が失踪した直後、彼は退職届を出した。その他にも40歳の職長も退職届を出しているが、20歳の彼は説得された残っていた。

 

彼は現場監督という職務においてはほぼ同期で、二人して試行錯誤して現場に取り組んできた。この会社でほぼ唯一、本音で話してきた子だ。趣味が同じだったし、価値観も似ていた。建設業に染まっているわけでもなく、二人して将来のことや会社のことを話した。僕が1年前に見合いをしたり、彼女ができたときも唯一彼にだけはそれを話した。

 

社長に対しての対応で面と向かって怒られることもあったし、彼を励ますこともあった。ラーメンを食べに行ったこともある。辛いクソみたいな現場を乗り越えて来たし、彼が入院した時は彼の書類を僕が作ったこともある。彼には彼女がいたし休みたい性分だったから休め休めと休ませた。とにかく将来の右腕として彼に対していた。

 

そんな彼が「自分が何をしたいのか分からないんですよ」と言ってきたときに、彼のこの会社での目標は私と仕事をしていくことだったのではと思った。ここ数カ月、彼ともう一人の20歳の子のことはずっと気にしていたけど、何ともいえないうしろめたさを感じた。その彼と、今後のキャリアについてしばらく話した。困ったことに、別段自分も何がしたいのかというのがなかったから、言葉に困った。

 

そうこうしていると工務の部長が声をかけてきた。「どうしちゃったん、いやになっちゃったんかい」「まぁ社長です」と僕は答えた。彼は子供のころから会社にいたけど、率直に言って怖くて苦手だった。この年になって会ってみると、当時とはだいぶ雰囲気が変わり軽い感じのおじさんに変わっていた。自由奔放な人で、仕事には厳しく、ただ何かと問題がある人ではあり会社では嫌われているけど基本的な部分は僕によく似ている。

 

僕の「好きにしたらええがな」という自由主義的な価値観はこの人物から来ている。高校生のころに少しアルバイトをしたことがあって、その時に部長が話していたことがある。

 

「昔、仕事でスゴイよくしてくれる人がいて、自分だけではなくてみんなにそうするんだよね。ただ、薬物中毒なんだよその人。でも、いい人なんだ。ある日、そのいい人の財布を盗んだ奴がいて俺たちが捕まえて、その人の前に引きずりだしたんさ。そしたら、その人はいうんだ。離してやれ、お前も金が無くて困ってたんだろう。その金はくれてやるから、みんなもういいよ。ってさ。スゴイいい人だろ?でも、薬物中毒なんだよ。だからさ、なんていうかさ、バカにしてもいいのかもしれないけど”存在しちゃいけない””いなかったことにしよう”って考えるは違うと思うんだ」

 

僕はホモセクシャルや人種や国籍にも基本的には寛容というスタンスで、時に「ファッションホモ」と軽蔑されることすらある。それに明確に苛立ちを覚えるのは確固たる信念があるからだ。オタクがゆえに軽蔑されてきたという背景もあるけれど。

 

そんな部長からいつものように長い一人話を聞かされて、最後に彼女の話をされた。たまには出かけるのかーとか。そして家を出るという話で「女と住む気だな!このー!」と茶化された。面白いモンダ。

 

別れて、本社の事務所でパソコンの処理をし書類を受け渡した。社長がいたけど特に挨拶もせずに彼は出て行ってしまった。事務の女性が僕の名前が書かれた掛け軸を渡してきた。社長が僕に渡したということだろうけど、意図が分からなかった。もう二度とかかわらないということなのか、逆なのか。会社の貸借対照表もついでに渡された。悩ましかった。

 

手続きが終わり、会社を出た。

 

会社・・父と僕の関係は終わった。生まれたときから会社を継ぐことを期待され、子供が親の期待に応えるように、僕は育った。結局ダメになったけど、長い年月、待ち続けた日でもある。その日がついに来たのだ。夢を叶えた、ともある意味言える。

 

さぞ晴れやかな気分!と思った

 

実際は違った

 

 

今後社長が会社をどうするかはさっぱり分からない。僕は資産を頂戴する腹はあっても経営する気はさらさらない。でも、今日話してきた人々は8年後・・社長が死んだとき・・とにかくあるタイミングで僕が戻ってくる前提で話してきていた。僕に姉は2人いるけど、あの2人ができるとは思えない。能力的に可能性があるのは僕だけだろう。

 

僕が否定しようとしている可能性を、巨大な力学が実現させ、僕の自由を奪おうとする、そんな予感がした。

 

どうなるかはもちろん分からない。一度出て行った人間を向かい入れるだろうかと言われると疑問だけど、僕と社長の不仲が原因であるとみんな気づいているところがあるから、いなくなれば私がという「現実」を今度は突きつけようとしている。

 

僕はこれで終わったと思っていた

もしかしたらこれが新たなる始まりになっただけなのかもしれない

 

感情では否定しても、僕の脳は案外現実的だ。転職に際して、僕が希望したキャリアは「経理」「人事」の方向だ。この2つにやたらと関心の寄せていた。

 

もしかしたら、この会社において「私だけが特に担当する領域」だからかもしれない。工務、営業は替えがある。経理も替えは聞くが経営者は財務について知識がなければならない。人事・・人は経営の要だ。もし、何か自分が求められたときに、必要とされている知識と経験を抑えておくべき。そう無意識に考えていたのかもしれない。

 

嫌なもんだ。

 

でも、保険は掛けておくべきだと、現実を見れば思う。今後数年で、実務経験をその分野で詰める可能性は微妙だ。せめて資格として有しておけるように手を打っておくべき。帰り道そう思った。

 

ようやく自由と思った

もしかしたら違うのかも、しれない。